人を突き動かすもの~世界遺産、熊野古道を訪れて~
「美しい景色を見ると心が洗われる」
景色は空気とセットで、
その場所の歴史、文化、エネルギーともセットである。
美しい景色を見ると心が洗われるのは、
視覚的に素晴らしいからだけではない。
美しい景色を見ているその瞬間は、
聴覚も嗅覚も皮膚感覚も刺激されているし、
空気や水などの身体に入るもの(味覚)、
さらには直感のような第六感も
その土地の影響を受けている。
つまり美しい景色は、
身体の細胞すべてに対して
威力を発揮していて、
だからこそ心も洗われるのだ。
熊野古道
熊野周辺はもともと、伊勢よりも歴史の古い自然信仰の地。
そこで出会ったのは、
定年退職後に地元のホテルで働く一人の男性。
彼は熊野に生まれ育ち、
成人後は役場に就職。
この地に生き、長年の変化を知る人物でもある。
かつての熊野古道は、
過去の栄光など忘れ去られたように放置され、
石畳の上には数十センチも土が積もっていた。
紀伊半島の温暖な気候で育つ広葉樹の葉は
簡単に道を覆い尽くし、堆積してしまうのだ。
彼は土の積もった古道を放っておけなかったそうだ。
誰も賛同者がいなかったのだろう。
一人でコツコツと土を掘り、道を整備した。
一日に、距離にして2メートルずつ。
気の遠くなるような、地道な作業。
そんなことをして何になるのかと
笑う人もいたそうだ。
それでも彼は、
見えない力に突き動かされるように
作業を続けた。
そして十五年以上を経て、
彼の努力は身を結ぶ。
熊野古道は
2000年に「熊野参詣道」として
国の史跡に指定され、
続く2004年7月に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として
2015年の今では、
日本のみならず世界からも旅行者が訪れている。
その話をする男性はとても嬉しそうで
心からの喜びに満ちていた。
彼を突き動かしたのは
何だったのだろうか。
それは、認められたいとか
称賛されたいというような
個人のエゴ的欲求ではないだろう。
おそらくは
心から愛し信じるものを守りたいという
本能的な欲求、魂の目的のようなものだったに違いない。
*「紀伊山地の霊場と参詣道」は、
文化遺産における「遺跡および文化的景観」として世界遺産に登録されている。
おまけ
「これはねー、もともと丸い一枚の岩だったんだよねー。」
と説明するその男性。
岩が風化すると、一部が朽ち、
一部が剥がれ落ちて
写真のような形状の石が出来上がるんだそう。
おまけ2
男性の話によると、1500万年前から姿が変わっていないとか。
写真の左側には尻尾もあったのだが、
今は国道が通っていて尻尾は無くなっている。
(国道が出来たのは昭和38年)